エンジニアとして海外移住を実現するために考えておくべき10のこと

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海外企業へのエンジニア就職。エンジニアをしていれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか?動機としては待遇、働き方、高度な技術、サービスのスケール感など個々によって違いはあると思います。

私自身はどちらかというと、「海外で生活するためにエンジニアになった」タイプの人間です。海外生活への憧れというよりは、人生長いので色々な経験をしてみたいというのが大きな理由でした。そのためには仕事によって職場を固定されないというのは大事な基準です。

実際に2020年11月からドイツ・ベルリンのITスタートアップで新卒入社から2社目のキャリアをスタートする予定です。

海外転職」と一言で表すのは簡単ですが、実際には様々なことを同時に進行しなければいけません。今回は海外エンジニア転職を実現させるために、どのようなポイントを抑えておくべきなのか簡単に紹介していきます。

1. スケジュール感

海外転職を完結させるためには、以下の事柄が必要になってきます。

  • 転職活動
  • 退職
  • ビザ申請
  • 引越し作業

転職活動自体は国内での転職活動に加えて、カバーレターやビザスポンサーの調査など追加で準備が必要です。さらに、海外へ移住するのでビザの申請や引越し作業、移住先での家探し、国内での税務関連の処理などやらなければいけないことが山積みです。ある程度スケジュール感をもって進める必要があります。

転職活動

採用プロセスは最短でも数週間は見積もっておいた方がよいでしょう。また、応募先全社のプロセスにエネルギーをかけるのは当然ですが、1社ずつ結果待ちをしていると採用に至らなかった場合時間の無駄です。オファーに至らないことがほとんどだと考えて、次に進みましょう。

退職

会社の規定でいつまでに退職届を受理してもらう必要があるのか、事前に確認しておきましょう。

また、面接中にも現職での退職通知はいつまでなのか(例:1ヶ月前、2ヶ月前など)確認されます。その期間によって最短での出社可能日を決める必要があるからです。また、有給が残っている場合は消化してから出国するのか、消化前に出国するのか検討が必要です。保険証の返納や退職書類(源泉徴収票など)の処理など自分で対処するか、家族に頼むのかも考えなければいけません。

ビザ申請

ビザ申請は国を跨いだ役所手続きです。

申請国の事情で休日を挟んだりなど、想定以上に時間がかかることもあります。大使館のHP内でも最長で数週間かかると明記されていることがあります。事前に確認しておきましょう。※私の場合、ビザ申請時に「2週間程度かかります」と言われましたが、実際には申請日の週の金曜日に手続き完了通知が届きました。

また、昨今のコロナ事情で大使館へのビザ申請アポイントメントが通常の手続きと異なることもあるので、就職先国が決まっている方は調べておくとよいでしょう。

引越し作業

引越し先が海外ですので、あまり多くの物を持ち運ぶことはできません。

オファーを受けとったその日から売れそうなもの・譲る物・実家へ置く物・捨てる物を分類していきましょう。出国前に引越し先が確定している場合は、船便などリーズナブルな手段で引越し先に送ってしまうことも良いと思います。

まとめ

オファーを受け取った段階で、ざっと以下の日付を確定しておくと良いでしょう。まだ十分時間があるから問題ないと考えていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

  • 退職通知日
  • 最終出社日
  • 退職日
  • 賃貸解約通知日
  • ガス・電気・水道解約通知日
  • 退去日
  • 出国日

2. 移住先の選定

移住先の選び方は人それぞれ異なると思います。最低限英語が通じる国に住みたいのか、環境は問わないのか。

選び方の基準としては大きく2つ挙げられると思います。住みたい国で選ぶのか、住める国で選ぶのかです。

理想的なのは住みたい国で移住先を選ぶことでしょう。

エンジニア業界であればアメリカやカナダ、オーストラリア、東南アジア、ヨーロッパ諸国など、世界中で募集があります。自分が住みたい国で仕事を獲得できればビザの心配もありません。しかし、この選択が可能なのはほんの一握りでしょう。また、待遇に関して妥協が必要な場合もあるかもしれません。

住める国から選ぶ方が、個人的には楽に進められるかなという印象です。外国人として現地で働く場合、学生以外の方にとって一番の問題はビザです。その問題が一番楽に解決できることを移住の理由にするのは至極真っ当な考え方だと思います。

私の場合、「ヨーロッパのどこかに住みたい」という漠然とした希望がありました。

その中で英語が通じ、IT業界も盛り上がっているのはロンドンでした。しかし、COVID-19の状況で昨年よりもビザをサポートしてくれる企業が減ってしまった印象です。毎日職探ししていましたが、なかなか良いポジションに巡り合わなかったため、少し視野を広げ調べてみたところベルリンも良い選択肢になりました。

  • ビザスポンサーの会社の数が多いこと
  • 移民に寛容であること
  • IT企業内で英語が公用語であること
  • IT人材にメリットの大きいEUブルーカード発給があること

3. ビザの種類

ビザの種類と書きましたが、エンジニアとして就職する場合、実際には2通りの候補しかないと思います。

30歳以下の若者へ発給されるワーキングホリデービザと企業から正式にスポンサーされた労働ビザです

若い方であればワーキングホリデーで渡航し、現地企業で働きながら最終的に労働ビザへ切替を行うことも一つの選択肢になり得ます。外務省の式サイトにおいて、ワーホリの協定国一覧とビザの発給数が公開されています。人気な国では抽選などもあり得ますので、少しでも気になっている方は早めに要項を確認しておくことをオススメします。

4. 給与

「日本のエンジニア業界は海外に比べて給与が低い」ということを耳にしたことがあるかもしれません。しかし現実は何とも言えないのが実情だと思います。

要は、生活コストと手取り給与のバランスが大事だからです。IT業界が盛り上がっている地域は、ほとんどの場合家賃が年々高騰してきています。そして、それに伴って物価も上昇しています。さらに欧米では日本のように安くて美味いお店が多い国はありません。自炊を心がけて食費を抑えていかないと日本での生活以上に費用がかさみます。

また税制度の仕組みによっては日本よりも額面の金額が大きくても手取り額が少ないこともあるので、一概に給与が高いからといって手元に残る金額が大きいわけではありません。(ドイツは税金が高い印象です。)

各都市でエンジニアの平均給与並のサラリーであれば、どの国でもQOLはほとんど変わらないというのが個人的な印象です。より評価されて市場価格よりも良い待遇を得られて初めて多少の贅沢できるのではないでしょうか。

5. 英語・その他の言語能力

海外でIT企業に就職した場合、社内では英語が公用語であることが多いです。外国人を積極的に採用している企業であれば尚更その傾向が強いです。

最低限の英語は必須と言わざるを得ないでしょう。

「英語がほとんど話せないけれど海外でバリバリエンジニアとしてやっていけています」という猛者をたまに拝見しますが、個人的には腑に落ちません。

※英語が話せないというのはあくまで自己評価ですので、言葉通りに受け取らない方が身のためだと思います。そういった方々は、「最低限英語で伝える力がある」または「技術力で英語力がカバーできる」という他己評価が伴っているため、そのポジションにいられるわけです。

当たり前の話ですが、毎日仕事を共にする仲でコミュニケーションが取れないのはストレスです。また、伝える力がないとそもそも面接でアピールすることもままならないでしょう。そういった意味で最低限の英語力はITスキルと同様に必須のスキルです。

また、英語圏以外に移住するのであれば、現地の言葉や文化に対する理解や学ぶ姿勢は重要だと思います。

ドイツに来て一番初めに感じたことは、英語が通じるとは聞いていたが皆が話せるわけではないという当たり前のことでした。日常生活において最低限のドイツ語は必要だなと感じる日々です。30歳目前で新たな言語を学ぶことを想像していませんでしたが、今はITスキルに加えてドイツ語を勉強しています。

この話はドイツ以外でも当てはまることでしょう。どこの国に行っても、現地の言葉を学ぶことは自分の生活を豊かにするためにも大事だと感じました。

6. 技術力・経験

海外の国では基本的にエントリー・(ミッドレベル・)シニア・プリンシパルとレベル別にポジションが用意されており、それぞれ経験年数の基準が要項に示されています。

自分の技術力を示せるポートフォリオやソースコードがない場合、おおよそ経験年数で判断されます。(というよりも、それ以外に判断する方法はありません。)社内で書くコード以外にアピールできるアウトプットがあることが理想的ですが、ない場合でも募集要項の技術スタックの経験や日本での経歴がマッチすれば書類審査はパスできるでしょう。

とはいえ、実際に経験してみてオファーをもらうのは茨の道だと実感しました。東京で職を探すのと異なるのは、競争相手が全世界のエンジニアだという点です。日本のように日本語が話せることが前提ではないので、必然的に競争は厳しいものになります。

また、日本で未経験の場合はさらに高いハードルを超えなければいけないでしょう。

大前提として海外には「新卒」という概念はありません。未経験の場合、エントリーレベルに応募することになります。そもそもエントリーレベルのエンジニアを採用している企業が少ないですし、ビザをスポンサーしてまで外国人を採用しているのは経験のあるエンジニアが欲しいからです。

7. 履歴書・カバーレターの準備

履歴書は英語で用意しておくと良いです。私は2段構成で1枚にまとめました。テンプレは探せば色々と見つかるはずです。内容としては

  • Experience(職歴・成果)
  • Education(大学以上の学歴)
  • Skills(技術スタック一覧)
  • Strength(長所)
  • Links(GithubやLinkedIn、ブログなどのリンク)

あたりをまとめておきましょう。履歴書に関してはプロジェクトが一段落したら更新するなど、常に更新し続けることが大事です。面接内で深堀りされることもあるので、あまり記憶のない成果には言及しない方が良いかもしれません。

カバーレターに関しては書かなくてもOKだったという経験談が散見されますが、個人的には必ず提出することをオススメします

応募企業数が多くコストが高いことはわかります。応募欄でもOptional扱いであることが多いのでスキップしてしまいがちですが、採用する側に立った場合、同レベルの候補者であれば熱意を優先するはずです。また、カバーレターもテンプレ化することでコストを最小化できますので、工夫して効率良く進めていきましょう。

下記の★段落を企業ごとに少し変更するだけで簡単にカバーレターも用意できます。

  • 応募企業への興味★
  • 現職での経験
  • 応募要項への言及・自身スキルへのマッチング★
  • 結び

8. 面接対策

私は新卒3年目に1度、国内で転職活動を行いました。その経験と海外企業への転職活動を比較すると一点違いがあります。

それは、必ず技術力を問う課題・テストが採用プロセスに含まれることです。

では技術力を問うとはどういうことでしょう?私が経験したのは以下のようなスキルテストです。

  • コーディングスキル(アルゴリズム・データ構造など)
  • コーディングスキル(APIやアプリケーション実装など)
  • システム設計スキル(オープンエンド議論)

多くの国内企業では、面接内で経験と技術的な内容を含む質問を軸に面接が進みました。(一部某有名IT企業では海外と同様のフローが採用されていました)

しかし海外企業の場合、書類スクリーニング、リクルータ面談を通過すると、必ず自作の課題やHackerRank上でコーディング課題が実施されました。

アメリカ系の企業ではデータ構造やアルゴリズムに関するコーディング試験が多く、ヨーロッパ系の企業ではより業務に近いアプリケーション実装が多かった印象です。それに加え、面接内で実際にコーディングを実施していったり、システムを設計していくプロセスも経験しました。

私が先へ進むことのできた、ほとんどの企業で最低2回は技術課題があったと記憶しています。それほど実際の技術力をベースに採用を進めていることがわかります。私自身も経験的に、外国人の経歴と実際の技術力にギャップがあることは実感していたので、そこを見破るためにもしっかりとした採用プロセスが用意されているのだなと感じることができました。

また、候補者にとっても納得感がある結果になることが多いと思います。私も手応えのある課題に関しては全てパスすることができましたし、うまく行かなかったと思ったら実際にダメでしたが、スパッと切り替えることができました。国内転職で経験した「技術力が足りない印象だった」という基準の不明な謎のフィードバックよりもよほど納得ができます。

とはいえ、この採用プロセスは慣れが必要です。一朝一夕で対応できるものではないので、コンピュータサイエンスの基本を振り返り、数を経験していくことで対策をしていくほか手段はありません。

9. 国内手続き

実際にオファーをもらって移住を決意したのも束の間、移住の前に様々な手続きを確認しておく必要があります。頻繁に帰国できるのであれば、少しずつ対応していくことも可能ですが、出国前に準備しておいたほうが後々楽です。

手続きの詳細は別の記事で詳しく触れようと考えていますが、ざっくりと以下の手続きが考えられます。

  • 退職前のクレジットカード申請
  • 退職後の健康保険証の返納
  • 資産管理の方針(銀行口座管理やその他の資産管理など)
  • 各種アカウントの住所変更
  • 住民税の支払い
  • 確定申告の納税代理人申請(年末調整が会社でできないため)
  • 住民票の出国手続き
  • 外国貨幣の獲得

基本的に国内のサービスは日本在住者向けに展開されています。海外在住となった瞬間に日本で今まで受けられたサービスが受けられなくなります。特に資産管理や税金周りは出国してから対応するのは大変手間がかかるので、事前に対応しておきましょう。

10. 資産管理

最後は資産管理についてです。

まずは最低限、数ヶ月分の現地生活費は工面できるように貯蓄しておきましょう。

また、ビザの形態によっては一定の貯金額が必要な場合もあります。移住を決めたらある程度まとまったお金を用意しておきましょう。

また株などの取引をしている場合も注意が必要です。国内のほとんどの証券口座が日本在住者向けのサービスで、海外在住者の取引を受け付けていません。口座を持つこと自体は許可されていますが、売買ができないので出国時にそれらの資産をどうするのか検討しておきましょう。