楽天・英語公用語化の実態は?元社員として感じた本来の目的と社内の雰囲気

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楽天といえば「英語公用語」は一つのキーワードではないでしょうか?

私も入社当時、両親に入社の意思を伝えた際、真っ先に返ってきた言葉は「英語で大丈夫なの?」だったような気がします。

ITに無頓着な両親でも知っているほど当時の反響は大きいものでした。

2年の準備期間を経て全社的に「英語公用語」へ切り替えが始まったのが2012年です。それから間もなく10年を迎えようとしています。

今回は昔の職場であった楽天の「英語公用語」の実態と、それに対する外部の反応に関して私の考えをお伝えしていきます。

1. 英語公用語のインパクト

「英語公用語」を本格的に開始したのは2012年ですが、社の方針として外部へ宣言されたのは2010年のことでした。

それから10年経過していますが、未だに世間では英語を話すということに対して、特別な能力であるかのような捉え方をしている印象を受けます。

日本で生活していると日本語以外の言語を話す必要性がないので、そういう感情を抱くことは珍しくありません。私自身も子供の頃は同じように感じていました。

しかし、いくら英語話せるメリットがあったとしても、ほとんどの日本人は英語を話せる必要はないでしょう。

外部の反応

当時の記憶はないので「楽天 英語」で検索してみたところ、様々な意見がみられました。

簡単にまとめると

  1. 社員同士のコミュニケーションが日本語
  2. 英語+日本語での社内アナウンス
  3. 英語しか話せない人材は楽天へ
  4. 英語公用語なのに日本企業特有のブラック企業体質
  5. 海外での低調な業績

といったところです。一つ一つ挙げるとキリがありません。

ざっと調べた所感だとポジティブな意見が2割、8割以上がネガティブな意見でした。

楽天という会社は創業から20年経っていますが、昔からネット上での人気がない会社です。何かとネガティブな面が取り上げられがちですが、まさに予想通りの結果でした(笑)

外部の反応に対する私見

シンプルに回答をすると、「どれも的外れ」というのが私の率直な意見です。

  1. 社員同士のコミュニケーションが日本語
    => 日本語話者同士で英語話すわけない。
  2. 英語+日本語での社内アナウンス
    => 伝わっていないよりマシ。当然の配慮。
  3. 英語しか話せない人材は楽天へ
    => 新卒採用だったらどの企業も同じような採用基準。何もできない人材よりマシ。採用基準として英語偏重だとは感じない。
  4. 英語公用語なのに日本企業特有のブラック体質
    => 言語と文化は関係ない。他文化に触れたこともない人間ほど唱える話。それほどブラックでもない。
  5. 海外での低調な業績
    => インターネットサービス企業が現地で事業をすることのハードルが高いだけ。ユニクロとは別次元の話。

印象としては楽天を批判する際の枕詞として「英語公用語なのに〜」が用いられているだけで、全く筋が通っていないことが多いです。

2. 英語公用語がもたらした影響

それでは何のために「英語公用語」を掲げたのか。

外部へのメッセージとしては「グローバル企業」として印象づけられるよう、なるべく多くの人の心に残りやすいような言葉を選んでアピールしたのだと思いますが、狙いはあくまでも別にあるように感じます。

人材採用戦略として一般的なアプローチ

それは採用戦略です。

IT企業での人材採用は各国、各企業必死になって取り組んでいます。

特にエンジニアの採用はIT企業にとって死活問題です。

日本人のエンジニアは相対的に優秀ですが、その数は限られており中々採用が難しいのが実態。

採用候補者の母数を増やすためには世界中の人材に目を向ける必要があります。彼らに興味を持ってもらうために英語化は必須なのです。

実際、世界中のIT企業が社内公用語として英語を採用しています。それは小さなスタートアップでも当然のように行われています。

英語を公用語とすることで、日本の優秀なエンジニアに目を向けてもらえないリスクもありますが、それよりも各国の日本へ興味のある優秀な人材を優先したということです。

加えて、海外事業関係者との連携がスムーズになるという側面もありますが、基本的には外国人を雇うことが大きな目的だと認識していました。

「公用語」という単語への誤解

エンジニアなど開発チームが英語主体になることを見据えた場合、それに伴って全社的に英語を第一言語とする流れは自然といえるでしょう。

ここで「第一言語」としたのは、「公用語」とすると誤解が生じると思ったからです。

私個人の一意見かもしれませんが、「公用語」とすると世間での捉え方としては何が何でもその言語で話さなければいけないと伝わっているように感じました。

しかし、実際にそんなことはありえません

仕事上日本人同士、英語で話す必要ありますか?

ありません。

しかし、その議論の中に一人でも日本語が話せない人が混ざっていたら話は別です。

IT企業ですので開発チームは大事な中核です。

業務をこなす上で社員同士コミュニケーションをとる手段として、優先して使用する言語を「英語」と定めただけに過ぎません。

英語に対するコンプレックスの裏返し

当時は「社内公用語を英語にします!」と発信した際、他の企業幹部や様々な有識者と呼ばれる方の間で議論になっていました。

  1. 英語公用語化の必要性
  2. 社会全体の英語促進化の動き
  3. 母語の重要性

について、様々な議論が展開されていました。

当時の記事や議論の様子の動画を見てみるとなかなか滑稽です。

ただ単に一企業の方針として「外国人を雇うために英語をメインにします」というだけの宣言を大袈裟に受け止めすぎです。

海外の事業の展開をしていても現地とのやりとりが発生するためだけに英語を公用語にする必要なんてあるわけないですし、社会に英語学習を啓蒙しているわけでもない。ましてや母語の日本語を軽視していることも全くない。

あくまで推測ですが、ほとんどの方が英語で話すことができないため、そのことを特別視していて、第二言語がどういう役割を果たしているのか実感できていないだけだと思います。

日本語を話さない外国人とどうやってコミュニケーションをとるか。比較的外国人でも親しみやすい英語で話そう。これだけのことなのです。

3. 現場の実態

それでは、現場ではどのような様子なのでしょう。

私が入社した当時は、英語への切り替えが始まってから数年が経過した時期でした。私はエンジニアとして入社しています。

簡潔に述べると、

  1. 英語使用頻度は部署ごとに異なる
  2. 外国人割合も部署ごとに異なる
  3. ミーティングやプレゼン、社内ドキュメントは基本的に英語
  4. 英語が全くダメでも別の部分で秀でていれば認めらる環境

といったところでしょうか。

当たり前のことですが、事業によっては全く英語を話す機会がないこともあります。日本のお客さんに対して英語で営業かけませんよね。

私の元働いていた開発チームの環境だと以下のような形になります。

外国籍の内訳としては、アジア圏(韓国・中国・香港・台湾・インド)、ヨーロッパ圏(ドイツ・イギリス)、北米圏(アメリカ・カナダ)など多種多様です。

私と同時期に入社したエンジニアも8割ほどが外国籍でした。

総合職の様子はいまいち良く分かりませんが、すでに採用戦略として英語化したことの結果が現れていると感じました。

4. 現場社員の英語力に関して

社員の英語力に関しても批判的な意見がSNSやネット上で散見されますが、これに関しても視点がズレているかなという印象です。

1. 業務における英語力って?

日本で英語力を表す指標として一般的なTOEICスコアですが、実際のコミュニケーションにおいて全く参考になりません。

「英語」というキーワードを持ち出した瞬間に日本人は「流暢さ」に焦点を当てがちですが、本質的に大事なことは英語を使って業務を遂行することに他なりません。

相手の言っていることを理解でき、自分の言いたいことを伝えられれば良いのです。

実際に現場で働いた経験のない人ほど、純粋な英語力に目を向けてしまいますが全く無意味です。

それは日本人・外国人問わず、どんなに英語が流暢であっても評価基準は仕事の成果です。英語の能力がとりわけ高くなくても出世している人はたくさんいます。

2. 社員の英語力は?

では現場社員、特に日本人の英語力はどういったところなのか。

総評すると「流暢に話せる人は限られているが、コミュニケーションはとれている」レベルかなと思います。

え?英語公用語なのにそのレベル?と感じた方もいるでしょう。

外国籍の社員と比較した場合、日本人の英語力は低いです。

それは異国の地で働こうと考える外国人と比較したら当然の結果でしょう。日本人でも英語が話せなければ海外に出ていこうと考えないことと同じです。彼らも英語が話せるから日本に来ようと思っているわけですので。

しかし、日本の一般的な水準で(大方の人が全く話せない)純粋な英語力を評価すると断然レベルは高いです。

多くの方が留学や在住経験がないにも関わらず、仕事上のコミュニケーションのみならず日常会話できています。

もちろん全ての方がスムーズに意思疎通ができるわけではないことも確かなので課題は残っていますが、ある施策を実行した場合、一定数がそういった状況になることはどの企業においても起こりうることです。

5. おわりに

「英語公用語」は日本において大きなインパクトのある方針でした。

インパクトが大きいが故にそのイメージが一人歩きしていることもあり、「英語偏重」かのような批評・批判が定着しています。

しかし、実際に数年働いた上で感じたことはお世辞抜きに「働きやすい良い会社」だということです。

会社を離れた理由はエンジニアとしてのキャリアステップの一環に過ぎません。もちろん会社として良い面・悪い面ありましたが。

「英語公用語」はあくまでIT企業として人材発掘のための当然の方針、世界的なスタンダードに沿ったものと理解しており、それが全てのように捉える時点でナンセンス。海外事業の売上に結びつけることも意味不明です。

英語力も業務上必要なスキルですが、仕事においてその能力が全てではないです。私も完璧に話せません。

今後、就職を検討されている方は英語力だけでなく自身のストロングポイントを持つように。また、英語が苦手な方でも他に得意なことが領域があれば全く問題ありませんので、ぜひ挑戦してみてください。

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